
+trek storys #2
御嶽のしゃくだんばな
Beyond the Kuroshio Current
永田御嶽(永田岳)より、東シナ海のほとりの永田集落をのぞむ。沖に浮かぶのは口永良部島。屋久島は火山島ではないが、すぐ西側に沖縄トラフの沈み込み帯に伴う火山フロントが走る。
日本一の石楠花という人もいる。
そうかもしれないな、と思う。
逢う魔が時をむかえ輝く花たちの妖しさよ。
吐噶喇の南のはじ、宝島の歌にこの花のことが唄われていたらしい。はるか北に浮かぶ島の二千メートル近い山々に咲く花のことを、琉球の人々が知っていたのかと思うとなんだか嬉しい。




ああァ、掖玖(やく)のみたけのォしゃくだんばなはァ〜
はなもみどりでえェ〜はもみィごとおォ〜
梅雨を迎え、木によっててんでバラバラな、してもしなくてもほとんど替わり映えのしない衣替えがひと段落する頃。
濛々と湿気を纏い、立っているだけで汗が吹き出す森にいるのはより不快になったが、よく見れば頭上の空中庭園にはちいさなランたちが咲き始め、鞠のようなホヤの花があちこちぶらぶら垂れている。
そんな些細な変化を見つけるのが楽しくて、また名ばかりの輝く森の底に潜りこんでしまう。
秘密のまちがい探しのつづきをしに。
※屋久島では照葉樹林は海岸付近から分布し、標高千メートルくらいにかけヤクスギ帯に移行してゆくが、古い森は数すくなく、高度成長期の伐採以後50〜60年生ほどの森が各所で育っている。現在も比較的古い森がまとまった面積で残っている代表的な場所が、もののけの森で知られる白谷雲水峡である。
[LAURISILVA]
(月桂樹の葉のように)”輝ける森”という意味のポルトガル語。日本語の『照葉樹林』は直訳。ヨーロッパの照葉樹林は、有史以前に大陸氷床の前進により絶滅したと言われるが、大西洋に浮かぶマデイラ島などにその語源となった森が今も遺るという。
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2020 ULTRAMARINE
Old Laurel Forest in North,Yakushima